このページは、訪問看護ステーションの営業管理について、目的の整理から実務の手順、管理方法の選び方、導入後の定着までを一つにまとめた完全ガイドです。各項目には、より詳しく解説した記事への案内を付けています。最初から読んでも、必要な章だけ読んでも使えるように構成しました。
訪問看護の営業管理とは何か
訪問看護の営業管理とは、新規利用者を紹介してくれる相手との関係を、記録にもとづいて途切れさせずに管理することです。
訪問看護の利用者は、自分でステーションを探して来ることはほとんどありません。居宅介護支援事業所のケアマネジャーがケアプランに位置づけるか、病院の地域連携室が退院時に依頼するか——そのどちらかで紹介されて初めて利用が始まります。つまり訪問看護の「営業」とは、この紹介元に対する活動であり、「営業管理」とはその活動と関係を記録し、管理することを指します。
ここで大切なのは、営業管理が扱う対象は利用者ではなく紹介元だという点です。利用者の記録を扱うのは電子カルテの仕事で、営業管理とは目的も使う場面も異なります。この違いを押さえておくと、後述するツール選びで迷わなくなります。
紹介が生まれる仕組みそのものについては、ケアマネ営業の基本で詳しく解説しています。
なぜ営業管理が必要か——利用終了は止められない
訪問看護ステーションの稼働率は、新規利用者の流入と、利用終了による流出の差で決まります。そして流出は、入院・施設入所・逝去といった利用者の状態変化で起きるため、ステーション側では制御できません。
だからこそ、稼働率を維持するには流入を安定させるしかなく、流入を安定させるとは「紹介元の候補リストに載り続けること」に他なりません。ケアマネジャーが「そういえばあそこに聞いてみよう」と思い出すかどうかは、直近に接点があったかどうかでほぼ決まります。
営業管理が必要な理由は、この「接点が途切れていないか」を記憶ではなく記録で把握するためです。人の記憶は3か月もちません。担当者が退職すれば、その人の頭の中にあった関係は消えます。記録があれば、誰が引き継いでも関係を続けられます。
稼働率と営業の関係は稼働率の考え方と上げ方で分解しています。
営業管理の全体像——5つの要素
営業管理は、次の5つの要素で構成されます。どれか一つが欠けると回らなくなります。
| 要素 | 内容 | 詳しい記事 |
|---|---|---|
| ① 営業先リスト | 紹介元を洗い出し、優先順位を付ける | 営業先リストの作り方 |
| ② 営業活動 | 訪問・電話・FAXで接点を作る | 営業のコツ |
| ③ 営業記録 | 接点を1行で残し、次アクションを書く | 営業記録の書き方 |
| ④ 空き情報の発信 | 枠の変動を紹介元に知らせる | 空き情報の伝え方 |
| ⑤ 見る仕組み | 週1回、最終接点日の古い順に確認する | 本ページ後半 |
このうち最も見落とされるのが⑤です。記録を「書く」ところまでは多くのステーションが取り組みますが、「見る」習慣がないと記録は日誌で終わります。営業管理の成果を分けるのは、書く仕組みより見る仕組みです。
営業先の3種類と優先順位
訪問看護の営業先は、大きく3種類に分かれます。
居宅介護支援事業所——ケアマネジャーが所属し、要介護高齢者のケアプランを作成します。件数の土台になる紹介元で、営業先リストの中心です。
病院の地域連携室——退院支援を担い、医療依存度の高い患者を在宅へつなぎます。判断が速く、「今週末に退院が決まった」といった急ぎの依頼が多いのが特徴です。伝えるべき情報がケアマネジャーとは異なります。
地域包括支援センター——高齢者の総合相談窓口で、要支援者や相談経由のケースが紹介されます。
優先順位は、距離・併設サービスの有無・過去の紹介実績で決めます。全件を同じ頻度では回れないので、重点先を月1回、それ以外を数か月に1回の接点を目安に設計します。営業先の洗い出し方は営業先リストの作り方、病院への営業の違いは病院・地域連携室への営業で詳しく解説しています。
営業活動の実務——時間帯・初回・継続
営業活動そのものにも、業界特有の作法があります。
時間帯——月初1〜10日はレセプト(請求業務)の集中期間で、この時期の訪問や電話は避けるのがマナーです。朝の申し送りと夕方の終業間際も避け、9時台・昼前後・16時半台が現実的な時間帯になります。
初回訪問——目的は契約でも紹介の約束でもなく、「候補リストに入れてもらうこと」です。5〜10分で、対応エリアと空き状況・対応できる医療処置や体制・直通の連絡先の3点だけを伝えます。パンフレットを最初から最後まで説明するのは逆効果です。持ち物と話す順番は挨拶回りの実務にまとめています。
継続——営業の成果は初回ではなく継続で決まります。候補リストは接点が途絶えると静かに入れ替わるからです。継続を気合いで支えるのではなく、最終接点日を記録し、一定期間空いた先を週1回拾う仕組みにします。詳しくは営業のコツをご覧ください。
営業記録の型——1分で書ける5項目
営業記録は報告書ではなく、次の接点のためのメモです。項目は5つで十分です。
- 日付
- 相手(事業所名と担当者名)
- 手段(訪問・電話・FAX・メール)
- 内容(1〜2行。相手の発言はそのまま残す)
- 次アクション(いつ・何をするか)
価値の大半は5番目の「次アクション」にあります。これが書いてあれば、記録はそのままToDoリストになります。
続けるためのルールは1つに絞ります。「接点があったら、当日中に1行」。書式も文字数も問わないと明言することが、続く唯一の条件です。週末にまとめて書く運用は、記憶が飛ぶため必ず破綻します。書き方の詳細は営業記録の書き方で解説しています。
空き情報の発信——売り込みにならない接点
「営業に行っても話すことがない」という悩みは、実は毎月変わる営業ネタを見落としています。空き情報です。
ケアマネジャーが新規の依頼先を探すとき、最初に知りたいのは「どこが受けられるか」です。空き情報の連絡は、相手が必要としている情報を届ける行為であって、売り込みではありません。だから嫌がられにくく、続けやすい。
載せる項目は、空き枠(曜日・時間帯まで具体的に)、受け入れ開始の目安、対応エリア、対応できる内容、連絡先の5つ。急ぎの枠は電話、定期的な共有はFAX、手渡しは訪問のついで、と手段を使い分けます。
利用終了で枠が空いたとき、黙っていればただの空床ですが、紹介元に伝われば営業材料になります。稼働率の管理と空き情報の発信はセットです。テンプレートを含めた実務は空き情報の伝え方にまとめました。
管理方法の選び方——紙・Excel・専用ツール
営業管理の手段は、紙・Excel・専用ツールの3方式があります。上位互換の関係ではなく、規模と体制で最適解が変わります。
| 方式 | 向く規模 | 限界 |
|---|---|---|
| 紙 | 紹介元20件程度・担当1人 | 共有と検索ができない |
| Excel | 100件程度・担当1〜2人 | 訪問先で書けず、複数人で最新がわからなくなる |
| 専用ツール | 複数人で分担 | 費用と、ルールを浸透させる運用が必要 |
多くのステーションにとって、Excelは現実的な出発点です。営業先リストと営業記録の2表で始められ、並べ替えとフィルタで「最終接点日が60日以上前の先」を拾えます。無料テンプレートも配布しています。
営業管理テンプレートをダウンロード(Excel形式・無料・登録不要)
Excelの限界が来るサインは、「訪問先で書けず記録が空く」「複数人が別ファイルを持ち最新がわからない」「担当者しか知らない紹介元がある」の3つです。逆に、これらが起きていないうちは乗り換える必要はありません。3方式の比較は紙・Excel・専用ツールの比較、Excelでの具体的な運用はExcelでの営業管理をご覧ください。
専用ツールを検討する段階になったら、比較の観点は7つあります。スマホで入力できるか、最終接点日が一覧で見えるか、紹介元を軸に管理できるか、スタッフ間で共有できるか、紹介実績と結びつくか、既存データを移行できるか、費用と解約条件。詳しくは営業管理システムの選び方で解説しています。なお、このガイドを運営するMediChartも営業管理ツールの一つですが、上の7観点を満たすなら選択肢は他にもあります。
導入と定着——最初の30日
ツールを入れれば解決する、というものではありません。導入の失敗はほぼ導入後の30日で起きます。アカウントを作ったまま一度も使われない、という結末が最も多い。
定着の手順は次の通りです。
- 1〜7日目:ルールを1つだけ決める。「接点があったら当日中に1行」
- 8〜14日目:移すデータを「現役の紹介元」と「最終接点日」の2つに絞る。全件移行は立ち消えの元
- 15〜21日目:全員が1回ずつ書く。管理者だけでは最終接点日が信用できない
- 22〜30日目:週1回、60日以上空いた先を見る習慣をつくる
定着したかどうかは「先週の接点が何件記録されたか」で判断します。ゼロの週が2回続いたら、機能ではなくルールか入力手段を疑ってください。詳しい手順は営業管理ツールの導入と定着にまとめています。
開設直後の営業管理
訪問看護ステーションは常勤換算2.5人という小さな体制から開設できますが、開設した瞬間から利用者ゼロ・紹介ゼロの状態で固定費が出ていきます。最初の90日の営業が、経営の立ち上がり速度を決めます。
- 0〜30日:営業先リストを作り、一枚もの資料を用意し、挨拶回りの1周目を回る。前職や人脈への開設報告も
- 31〜60日:空き情報で2周目の接点を作り、病院営業を始め、記録の習慣を固める
- 61〜90日:初回紹介に即答し、経過を報告し、「2件目」につなげる
利用者が少ない開設直後こそ、営業時間を固定で確保できる唯一の時期です。訪問が増えるほど営業時間は取れなくなるため、序盤に作った接点の貯金が後々まで効きます。30日ごとの計画は開設後90日の営業計画で解説しています。
営業管理でよくある失敗
営業管理がうまくいかない原因は、製品の良し悪しよりも運用にあります。よくある失敗を挙げます。
記録はあるが見ていない——最も多い失敗です。書くだけでは日誌にすぎません。週1回、最終接点日の古い順に並べる時間を申し送りに組み込んでください。
管理者だけが記録している——接点の一部しか残らず、最終接点日が信用できなくなります。訪問のついでの5分の挨拶も、全員が1行残す運用にします。
ルールが増えていく——「次回予定も必須」「訪問は写真も」と足すほど、入力されなくなります。ルールは1つに戻してください。
空き情報を発信していない——枠が空いても黙っていれば空床のままです。空いた週のうちに重点先へ連絡する運用を決めます。
断った相手に連絡していない——空きがなくて断った相手に、空きが出たとき最初に連絡する。これは最も刺さる営業連絡のひとつですが、断りの記録がないと実行できません。
用語を押さえる
営業管理を進めるうえで頻出する用語は、訪問看護の営業・経営 用語集に36語をまとめています。管理者・常勤換算2.5人・ケアマネジャー・居宅介護支援事業所・地域連携室・紹介元・稼働率・レセプト・訪問看護指示書・オンコールなど、営業の相手や場面を理解するための定義を短く正確に記載しています。スタッフへの説明にもお使いください。
まとめ——営業管理チェックリスト
最後に、このガイドの内容をチェックリストにまとめます。
- 対応エリア内の居宅・病院・包括を全件リスト化しているか
- 各営業先に最終接点日が記録されているか
- 営業記録のルールは「接点があったら当日中に1行」の1つだけか
- スタッフ全員が記録しているか(管理者だけになっていないか)
- 週1回、最終接点日の古い順に並べて見る時間があるか
- 枠が空いたとき、その週のうちに空き情報を発信しているか
- 断った相手に、空きが出たとき最初に連絡する運用があるか
- 管理方法(紙・Excel・ツール)が今の規模と体制に合っているか
訪問看護の営業管理とは、特別な話術でも高価なシステムでもなく、紹介元との接点を記録し、途切れる前に気づける仕組みのことです。この8項目が回っていれば、担当者が変わっても紹介は途切れません。